淡路島の温暖な気候と溢れるような日差しによって作られる最高級の手揉み塩を作る窯元を訪ねて


神戸から明石海峡大橋を渡り、約1時間ほどにある淡路島、釜口。

ここに今では全国でもほとんど見なくなった手揉みによる塩作りをされている職人がいる。それが山下勤也氏だ。

山下氏が作る手揉み塩は一粒一粒の結晶が非常に大きく、色も透き通るよう。

そして何よりうまい。塩とはこの様なものだったのか!と衝撃を受ける。

現在、有名シェフや料理人がこぞって買い求める山下氏の作る手揉み塩とは。今回は実際に塩を作っている作業場にお邪魔して山下氏と弟子の濱野さんにお話をお伺いした。

淡路島の安定した気候と長い日照時間が最高の塩を作り上げる


釜口にある作業場は淡路島の東側(太平洋側)に位置する。お邪魔した日は冬の寒い時期だったが、ここでは薄いジャケット一枚でも十分なほど暖かい。

山の斜面に置かれたビニールハウスには影ができにくく、夕方になりすっかり太陽が太平洋に沈むまでずっと陽が差し込み続けるのでハウス内は眩しすぎるほど明るい。

最高の手揉み塩を作るにはこの安定した気候と長い日照時間がカギを握るのだ。

自然と人の手によって作られる手揉み塩


手揉み塩は近くにある柴宇淡路食彩がポンプや手で汲み上げたものを使用。

天然の海水を汲み上げ、それを自然乾燥させていくのだが、その間に何回も何回も人の手で揉む。

揉むことで塩の結晶がくっつき、バラバラにされるのが繰り返され、一粒一粒の結晶が大きくなっていく。

全ての作業は清潔に管理されたビニールハウス内で行われるのだが、先述したように塩は天然の太陽光による自然乾燥なので、ビニールハウス内にはエアコンなどない。

当然夏場などは一瞬中に入っただけでも汗が噴き出るほど高温に。その中での作業なのだから大変だ。

塩職人 山下勤也


そんなこだわりの手揉み塩を作る山下氏はどういった経歴でこの道を選ばれたのだろうか。お話を聞いてみた。

「元々塩を作る前は生産者ではなく普通のビジネスマンとして働いていました。リサイクルに関係するような環境関係の仕事です。その仕事をする上で元々海が大好きで、海に関係するような仕事をしたいなと考えているうちに、塩作りはどうだろうと考えるようになりました。」

「塩作りは地方の方が色々とやられていますが、なかなかうまくその良さや価値を世の中に伝えられていない。せっかく良い塩を作ってもうまく消費者に届いていない。それをどうにかしたい、そして何よりも塩は地方を盛り上げるビジネスになるという確信があったんです。」

そう語る山下氏の表情は明るい。

環境問題への想い


自然に元々ある海水を汲み上げ、それを自然光で人の手を加えながら乾燥させ、作られる手揉み塩。これだけでもすでに地球に優しいビジネスと言えるのではないだろうか。

SDGsやサティスナブルなどの言葉があるように、事業に関する環境問題への取り組みも一つのテーマであると山下氏は考えている。

今回、手揉み塩を作るにあたって新しく何かを消費するのではなく、現在ある資源を出来るだけ再利用することを心がけてこられたそう。

例えば、塩作りのために欠かせないビニールハウス。これは高齢化が進み放置されていたコスモス栽培などで使われていたもの。

また一帯の竹や廃木材などを利用することで、限りなく資源消費をセーブ。現在使用している資源といえば、近くから水を運ぶ際のガソリンくらいとのこと。

「内閣官房長が発表したデータによると現在、日本の塩の自給率は12%ほど。多くの塩は国外から輸入されている。自給率を上げることで塩の安定した供給が確保されると共に、輸入の際の燃料などの資源の消費やコストを抑えることもできるようになるはず。」

「また現在行われているイオン交換膜法*と呼ばれる製塩法はどうしても製造費用に占めるエネルギー費用比率が約30%と、他の産業に比べ非常に高い。もっと手作り塩を行う人が増えてほしい。」

そうも山下氏は語ってくれた。

* 海水を汲み上げ、イオン交換膜電気透析層で濃縮し、多重効用蒸発結晶缶で水を蒸発させて塩を生産する方法

こうやって最高のうまい塩が作られる


それではもう一度手揉み塩がどうやって作られているのかをみていこう。

一般的な塩の作り方はヨーロッパのような塩田や岩石から塩を削り出す方法と日本独特の先述したイオン交換膜法がある。

ただし日本は高温多湿の気候によりどうしても塩田法(浜辺などに広く海水を撒いて自然蒸発させる方法)は法律で禁止されており、岩塩などの資源は元々ほとんどない状態。

それゆえにイオン交換膜法が用いられているのが現状である。

山下氏による手揉み塩はこれらとは全く異なるアプローチによる生産だ。

    1. 海水を汲み上げる
    2. 廃材などを利用し海水を炊き上げる
    3. ビニールハウス内でコンテナに移し、海水を蒸発させる
    4. 結晶化した塩を手揉みする
    5. 水分が減った分、継ぎ足しをする
    6. ②〜⑥を繰り返す
    7. 一定量ができたら完全乾燥させる

その中でも④の手順が非常に大切。手揉みすることにより結晶化した塩が擦れ合い、一度バラバラになる。

それを繰り返すことで一つ一つの結晶が大きくなっていく。この作業によりミネラル分が失われずに旨味を残したままクリアな塩が出来上がるのだ。

手揉み塩ができていく様子

手揉みの頻度などは作りたい塩の品質やタイプにより異なる。

最高級の塩の場合は通常の倍の回数、手を入れることもあるのだとか。

コンテナはそれぞれ違うが塩ができていく様子を撮影させていただいた。



このように何度も手揉みと蒸発を繰り返すことで結晶化→細分化を繰り返し上質な塩が出来ていく。

この塩があれば料理の味を最高に引き出す


こちらの手揉み塩はとにかくミネラル分、そして旨味が凝縮されており、非常に美味しく風味をクリアに感じることができる。

味わいと風味がしっかりしていることで肉や魚、野菜などに使用すると素材の元々ある旨みを最大限に引き出すことができるんだそう。

ちなみに山下氏のおすすめの塩の使い方は大粒タイプの手揉み塩をイタリア原産のフレッシュチーズであるブッラータチーズに少し多めにかけて食べるやり方。

そして弟子の濱野さんは糠床に使うことでとても美味しいぬか漬けができるとおすすめしてくれた。

どちらも非常に美味しそうで是非試してみたいものだ。

現在はオーダーメイド製作も行なっている


このように希少で高品質な山下氏の手揉み塩は現在、高い評価を受け、多くの料理人から求められている。

そのため、「このような塩が欲しい」というリクエストに応えてオーダーメイド製作も行なっている。

例えば、”肉料理に使いたい”や”なるべくきめ細かく風味をつけられないか”という様なリクエストだ。

山下氏はそれを日々研究し、挑戦中。いつか我々がまだ見たことも味わったこともないような塩が世に出るのかもしれない。

ごちそうさんで特集した北新地 緒乃とのコラボレーションも実現!


最後にご紹介したいのが、以前当サイトでご紹介した超人気店、北新地 緒乃

そのオーナーシェフ小野孝太氏とのコラボレーションで作った塩がまもなく販売されるとのこと。

これは小野孝太氏の特別リクエストで作られた塩で、一度結晶化した最高の塩を再度溶かし、手順を繰り返すことで純度を高めたもので通常のステップの2倍以上手をかけて作られている。究極の塩だ。

 

今、最も注目するべき日本料理店「緒乃

小野孝太氏の特別リクエストで作られた塩。通販にてご購入が可能。

商品ページはこちらです。