『街蕎 仁ト伍』蕎麦の概念が覆る、心斎橋の隠れ家

心斎橋駅から徒歩1分。
宇治園ビルの3階に、趣のある暖簾と小さな木の看板が静かに掲げられている。

引き戸に手を添えて店内へ歩みを進めると、都会の喧噪がふっと遠のき、淡い照明と木の温もりがそっと迎えてくれる。

店内は、古民家の建具を取り入れた温かい空間。


新しさよりも、ほっとするような生活の気配を残している。

静かに料理へ向き合える、穏やかな空気が流れている。

蕎麦を主役にしながらも、ひと皿ごとに異なる表情を見せるコース構成。

まったく別の業界から心機一転、手探りで蕎麦と向き合い、ゆっくりと確実に積み重ねてきた時間が今の形をつくった。


これまで味わったことのない“蕎麦の新しい可能性”に出会わせてくれるお店だ。

街蕎 仁ト伍(がいきょう にとご)──名前に込めた想い

店名の「街蕎 仁ト伍」は、一文字ずつに強い想いが宿っている。
“街蕎”は「都会の蕎麦料理」を意味する造語。


「仁」は“思いやり”。
食材を選ぶときも、料理を仕立てるときも、常に“その人を思って作る”という姿勢を大切にしている。
「ト」は“人”、“伍”は“なかま”。


食べることを心から楽しむ仲間が集まり、食材同士もまた、ひとつの皿の上で自然に調和していく。
そんな願いを込めて名づけられたのが、「街蕎 仁ト伍」だ。

店主 佐藤 万治郎

店主の佐藤万治郎さんは、もともとデザインや映像の仕事に携わっていた。


東京で出会った自家製粉の手打ち蕎麦に衝撃を受け、幼い頃から抱いていた蕎麦のイメージが一気に塗り替えられたという。


その後、大阪に戻ってからは、趣味として独学で蕎麦打ちを続ける日々。

やがて目の病を患い、これまでの仕事に区切りをつける決意をする。


「没頭できて、一生続けられるものを」


そう考えたとき、選んだのが蕎麦の道だった。

本業の傍らで飲食店に立ち、仕込み、衛生管理、損益構造まで実地で学び、それらを作業ではなく“技術”として吸収していく。

そして佐藤さんには、もうひとつ大きな転機がある。
25歳のとき、大事故に巻き込まれ、生死をさまようほどの重傷を負った。


当時の夢も断たれ、絶望的な数年間を送ることになる。
長い時間をかけて心と向き合う中で、再び前へ進む力を取り戻させてくれたのが、蕎麦づくりだった。


デザインや映像の世界で培った感性は、料理の佇まいにも、店全体の空気にも自然とにじむ。
俳優のように整った顔立ち、人を惹きつける柔らかな雰囲気。


その人柄に“スター性”を感じる人は多い。どこか不思議な存在感のある人だ。

その空気をそっと支えているのが、女将さん。
明るく、丁寧で、美しい所作で料理の説明をしてくれる。
ふたりが作る空気は、優しくて、凛としていて、どこか安心する。
この店のやわらかな空気は、料理だけでなく、ふたりの人柄そのものでもある。

蕎麦打ち歴10年、飲食経験3年の準備期間を経て開いた「街蕎 仁ト伍(がいきょう にとご)」。
“なぞるのではなく、新しい形を探す”という姿勢は揺るがない。


ゆっくりと、確実に積み重ねてきた時間と覚悟が、蕎麦を打つ手に静かに宿っている。

街蕎 仁ト伍のこだわり──“再現”ではなく“再構築”

一般的な蕎麦屋では、スピード感のある提供が求められることが多い。
しかし 街蕎 仁ト伍(がいきょう にとご) では対照的に、その場で一皿ずつ丁寧に仕上げるコースを追求している。
料理はすべてオリジナル。

「もちろんヒントを得ることはありますが、スタンダードなメニューを高品質に再現することに重きを置いていません。

再現より、再構築。

なぜなら業界の先輩たちの方が、積み重ねてきた“再現技術”に、後発の自分が同じベクトルで挑んでも敵わない。なにより、メニューをお客さまに寄せていることを大切にしています。」

同じメニューを連続して出すことはほとんどない。
その日の同席者の好みや反応を見ながら、一組ごとに内容を調整していく。


来店を重ねるほど、そのお客さまの好みがより鮮明になり、そこに大きなやりがいを感じているそうです。


席数が少ない店だからこそできる“寄り添い方”だ。

料理には、できるだけ蕎麦の要素を忍ばせている。


触れれば触れるほど、蕎麦という食材の奥深さに無限の可能性を感じるという。

品種や流通、保存技術や調理法などの飛躍的な発展や環境の変化、食材の無国籍化など時代が変わったからこそ出会えた素材の組み合わせもある。


現代の進化があるからこそ作れる蕎麦料理をここで表現している。

料理だけでなく、器にも妥協がない。


店で使われる器の一部は佐藤さんが自ら制作したもの。

「この料理にはどんな器が寄り添うのか」


料理と器の対話の末に生まれた形は、まるで一枚の風景画のように皿の上で調和する。

そんな街蕎 仁ト伍のこだわりが詰まった料理を、ここから紹介していきましょう。

前菜蕎麦──野菜を感じる最初の一皿

野菜のような風味を感じる十割蕎麦から始まる斬新なコース。

農家直送の蕎麦の実を、一晩水に浸け、発芽させてから打つ蕎麦。

甘さと発芽由来のスプラウトのような風味を引き出している。

口に含むと、ふわりと広がる豆のような甘みと香ばしさ。


蕎麦そのものの力を、まっすぐに感じさせる一杯だ。

鯨鹿子(くじらかのこ)の藁燻し卵黄和え

鯨鹿子とは喉の部分で、脂が適度に入り、やわらかな弾力を持つ。


藁の香りをまとわせ、甘みのあるニンニクだれで軽く揉み、卵黄を絡めてユッケのような仕立てに。


日本酒が自然と進む、ご褒美のような一皿。

揚げ蕎麦がき

蕎麦がきは、あえて“揚げ出し”のスタイルに。

紅くるり大根をすり流した赤みのある出汁が、ほのかな苦味とやさしい甘みのコントラストを生む。

タラの芽、こごみ、辛味大根の花、京都の白たけのこ。

春の山菜が寄り添い、カリッと揚げた蕎麦がきに、四季の息吹を重ねてくれる。

真ん中の蕎麦──繊細さの極み もちとろろ花山椒のぶっかけ蕎麦

コースの途中で登場するのは、前菜蕎麦と同じ蕎麦の実を大変細かく製粉し、極細に打った繊細な蕎麦。


十割とは思えないほどのなめらかさで、するするといくらでも喉を通る。

厚節などをブレンドした出汁は、30〜40分かけてじっくりと抽出。
細かく製粉した蕎麦は10秒ほどで茹で上がるほど繊細。


長芋と大和芋を掛け合わせた「もちとろろ」が絡み、とにかく喉ごしがいい。
花山椒の塩漬けが香りと痺れを添え、“中毒性のある蕎麦”に仕上がっている。

鰻の白焼きと雲丹、蕎麦の実のリゾット

次に登場するのは、思わず目を奪われる“鰻×雲丹×蕎麦”の贅沢な組み合わせ。


青森・陸奥市せきね町の雲丹を使い、蕗のとうとマイクロセロリをバターと白ワインで煮含めてお米の代わりに蕎麦の実を使ったリゾットに。

クリーミーなソースの中に、蕎麦の実ならではの“芯のある食感”が心地いい。


鰻の白焼きの香ばしさと雲丹の甘みが溶け合い、米のリゾットとはまったく違う軽やかで奥行きのある味わい。

〆の蕎麦──魂を込めて手挽きしたメインの蕎麦

コースを締めくくるのは、殻付き玄蕎麦を全量手挽きで製粉した粗挽き十割蕎麦。

手挽きの石臼をゆっくりと回すことで、香りと味わいを最大限に残すという。

この日は、島根県奥出雲の希少な在来種・猿政小そば。

蕎麦への徹底した向き合い方。

発芽させた蕎麦、手挽きの粗挽き、極細の製粉──
それぞれに合わせて茹で時間も茹で方も変える。

殻付きの力強い蕎麦、ほどけるような繊細な蕎麦、甘みの強い蕎麦。
ひとつのコースで“蕎麦の顔”が次々と変わるのが、この店の魅力だ。

EDDUのハイボール

蕎麦に寄り添う、特別な一杯。
フランス・ブルターニュ地方でつくられるウイスキー「EDDU」のハイボール。


蕎麦料理と同じ香りの系譜を持ち、驚くほど相性がいい。
45度の山椒焼酎など、普段出会えないお酒も揃い、料理の世界観をそっと広げてくれる。

好奇心が導く未来

佐藤さんは、新しい食材や調味料に出会うと深掘りせずにはいられない。


“いつか海外でもやってみたい”と語るその目は、真っ直ぐで澄んでいる。

街蕎 仁ト伍は、蕎麦の枠を超えて進化を続ける。
だからこそ、今後の展開にも目が離せない。


ぜひ一度、この世界観に触れてみてほしい。

街蕎 仁ト伍(がいきょう にとご)店舗情報


街蕎 仁ト伍(がいきょう にとご)
住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-4-20 宇治園ビル 3F
最寄駅:心斎橋駅 徒歩1分
電話番号:06-4256-2534
予約:Webサイトより受付(完全予約制)
営業時間:18:00〜
定休日:不定休
席数:6席(5〜6名で貸切可能)
予算:おまかせコース16,500円(税込)~、ドリンク700円〜
※価格は変動する場合があります

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