季節を纏う鮨「髙橋 謙太郎流」の塩分哲学

2014年北新地にオープン以降、その名を急速に知られるようになった「鮨 髙橋 謙太郎」
瞬く間に多くの食通や鮨愛好者たちの間での話題となり、今や予約を取ることは至難の技となっています。
その人気の背後には、一貫一貫にこだわりを感じさせる鮨があります。
四季の移ろいや風情がそのまま鮨として現れ、まるで目の前で繰り広げられる風景のように楽しませてくれる。
食べるたびに季節の美しさや移ろいを感じられるのは、「鮨 髙橋 謙太郎」ならではの魅力です。
何よりも特筆すべきは、喉の渇かないシャリとネタのバランス。
素材の良さを最大限に活かすため、計算し尽くされた味付けと仕込み。
それは、余計なものを削ぎ落とし、本質だけを極める「髙橋 謙太郎流」の哲学なのかもしれません。
美味しい鮨だけでなく、髙橋氏の人生の軌跡や哲学、そして彼自身の人間力に触れることができる場所となっています。

「鮨職人は、小学生の頃からの夢」

店名は、「何も思い浮かばなかったのでフルネームにしました」と、にっこり微笑みながら話してくれました。
その言葉の背後には、ただ名前を冠するだけではなく、自らが看板を背負う決意や自身のアイデンティティが刻まれています。
幼いころから鮨職人という夢を抱いており、実際に小学校の卒業アルバムには「30歳で独立する」と明確に記していました。
夢を持つこと、そしてその夢を追い続けることの大切さを、小学生の頃から深く認識していたのです。
そして、その宣言通り、夢を実現し30歳で独立を果たしました。
「30歳での独立」は、髙橋謙太郎氏にとって一つのマイルストーンであり、その決意や情熱は、今もカウンター越しに感じ取ることができます。
それは単なる子供の頃の夢ではなく、髙橋謙太郎氏の情熱と使命感、そして決意に裏打ちされたものです。夢を抱きながらも、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
北新地での歴史は修行時代から延べ20年。
数々の困難を乗り越え、多くの経験を積んできたことが、独自の技術と哲学を築き上げる土台となりました。
一つ一つの経験が、料理への真摯な姿勢や鮨への深い愛情を形成しています。日々追い求めるのは、お客様に最上の瞬間を提供すること。それは、新鮮な海の幸を使った絶品の鮨だけではなく、お客様とのコミュニケーションや、店内での時間の過ごし方、さらには心地よい雰囲気作りまでを含めた体験です。
素材の選び取りからお客様への提供まで、一貫して髙橋謙太郎氏の哲学や情熱が織り込まれているのです。

「ちゃんとした料理だけど、肩肘張らず食べてもらえる鮨」がコンセプト

「鮨=水分と塩分と思っていて、子供、高齢の方でもしんどくならない品のある塩分濃度を1番に考えてます。」と髙橋氏は語る。
この考え方は、全てのお客様に安心して食事を楽しんでいただくためのもの。
特に子どもや高齢の方にとって過度な塩分は、体に負担をもたらし易いため、品のある塩分濃度を重視しています。
”旨い”を追求することは鮨職人としての原動力でありますが、その追求が行き過ぎると鮨は猟奇的な塩分になりかねません。
しかし、髙橋氏の考える鮨は、あくまで「食事」としての役割を果たすべきもの。
シャリの取り扱いには、細心の注意が必要だと髙橋氏は語ります。「シャリは割れたら終わり。シャリが割れてしまったら断面からでん粉が粘り、ふわっと握りたくてもシャリとシャリの隙間に割れた米が入ると口に入れた時のほどけ感が損なわれるので、かなりデリケートに扱ってます」「シャリは割れたら終わり」という言葉からも、シャリのデリケートさと、それを維持するための努力と大変さが伝わってきます。一粒一粒の米が割れてしまうと、その断面からでん粉が出て粘り気が生じ、鮨の理想的な食感が損なわれてしまいます。
このほどけ感は、鮨を口に入れた瞬間の感動の一部であり、それを失ってしまうことは許されません。
そこで、普段よりもさらに炊き上げにこだわりを持ち、米をしっかりと噛みしめられる美味しさを追求しているという。
髙橋氏の、シャリへの深い愛情と情熱を感じさせるエピソードです。「とても贅沢なお値段をいただいてますが、もっと自然な、ストレスのない、あくまで食事という感覚を持って食べに来てもらえるよう心がけています」
品のある味わいを提供することが「髙橋 謙太郎流」の信念です。

「鮨 髙橋 謙太郎」の料理

それでは、多くの食通達を魅了する「鮨 髙橋 謙太郎」の絶品メニューをご紹介していきましょう。

鱧子ととうもろこしの冷たい茶碗蒸し

滑らかな鱧の卵と袋のゼラチンに覆われたこの一品。卵の塩味ととうもろこしの甘みが絶妙なバランス。
とうもろこしはわずかな粒感を残しており、その自然な甘さと共に、食感も一緒に楽しむことができます。
この冷たくて滑らかな茶碗蒸しは、まさしく夏を象徴するような逸品です。

焼き鮎のお椀

美しいお椀は、こだわりの一つです。蓋を開けると優雅な出汁の香りが広がり、心暖まるような感覚に。食材の持つ本来の風味を際立たせるため、シンプルかつ控えめながらも、旨みを最大限に活かした味付けがされています。
鮎は苦味を微塵も感じさせず、ただ純粋に鮎の持つ上品で豊かな風味だけが口いっぱいに広がります。

のどぐろ丼

自信を持っておすすめできる、最高ののどぐろ丼。
日によって提供されることのない日もあるが、こちらを目当てに訪れる常連さんが多いことが、その美味しさの証。
ふっくら肉厚で上質な脂が乗ったのどぐろに、木杓をいれる瞬間の興奮は計り知れません。
甘さと旨みがふわっと口の中で広がり、次の瞬間、なめらかに溶け出します。
シャリの粒感と、繊細に仕込まれたガリが、全体に素晴らしいアクセントを加えています。
こののどぐろ丼、間違いなく、「最高の逸品」です。

中とろ

脂ののった口当たりは絶妙で、とろけるような感覚を楽しむことができます。
その上質な脂の余韻と共にふっくらとしたシャリを楽しめる一貫。
優しくフルーティーな赤酢の香りがふわっと広がります。

新子

一切の塩を使わずに仕込まれた新子。
これまで経験したことのない、しっとりとした新子の質感には驚きと感動を隠せません。
青さのない新子が持つ滑らかな質感と、喉を滑り落ちるような感覚は、言葉では表現しきれないほどの極上の美味しさです。

いくら

純粋に生のいくらの魅力を楽しむ、究極の贅沢。生のままのいくらの真価を堪能。
塩や醤油を避け、いくらの魅力をダイレクトに体験するこの逸品は、真の贅沢を感じさせます。素材の持つ美味しさを全面に出すため、余計な手を加えないというこだわり。他では味わうことのできない、究極にシンプルで極上のいくら。
この極力シンプルなアプローチが、他とは一線を画す絶品のいくらを生み出しています。
一度の味わいで、その差を確かに実感できるでしょう。

アオリイカ

切り込む瞬間のわくわく感。包丁を入れる瞬間から期待がふくらみます。
口に運ぶと甘みが広がり、アオリイカ特有のねっとりとした食感を堪能できます。
このアオリイカ、シャリとの相性も抜群で、美味しさをさらに引き立てます。

すずき

その身はふわりと柔らかく、優しい食感が一口ごとに感じられます。口の中にはしっかりとした旨味が広がり、心地よい余韻を残します。

巻き

子供の頃から、なんとなく太巻きは、寿司桶の脇役的な存在のイメージでした。
しかし、その概念は、この太巻きに出会うことで一変しました。
まさに食の革命。子どもの頃からのイメージを覆し、新たな美味しさに魅了されます。肉厚で脂の乗った鰻の香ばしさと口溶け、三葉のさっぱりとした食感、高野豆腐のふんわりとした口当たり、滑らかなたまご、そして上品に炊きあげられた椎茸の香り。
その全てが美味しく絶妙なバランスで組み合わさっています。
ぜひ一度味わっていただきたい。絶品です。新たな太巻きの魅力に酔いしれることでしょう。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
何度いただいても飽きることのない優しいお料理。
全てのバランスが素晴らしく、食材本来の良さを存分に引き立ててくれるシャリ。その美味しさに触れ、素材の魅力を堪能してください。
現金でのお支払いの際に贈られる自家製のふりかけや昆布などの特典は、他では味わえないサービスとして、多くの常連客に愛されています。このような心遣いやサービスのひとつひとつが、お客さまとの深い絆を築いているのです。
また来年2024年には、西天満への移転が決定しており、内装などが一新される予定です。新たな空間での食事体験も楽しみの一つとなるでしょう。ぜひ、その際にもお越しいただき、新たな味わいを発見してください。

鮨 髙橋 謙太郎のお店情報

鮨 髙橋 謙太郎

  • 住所:大阪府大阪市北区曽根崎新地1-7-5 バサラビル 4F
  • 最寄り:JR北新地駅より 徒歩8分
  • 電話番号:050-3134-3336
  • 予約制:OMAKASEのみ(3,6,9,12月の第1週目の日曜日)
  • 席数: カウンター10席
  • 営業時間:18:00~ , 20:45~ 一斉スタート
  • 定休日:不定休
  • 予算:30,000円~

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