「壱(にのまえ)」空間にこだわり、寛ぎのある料理屋

芦屋の閑静な住宅街の中、隠れ家のようなシンプルで控えめな外観。
2022年3月オープン後、瞬く間に予約困難店となった「壱(にのまえ)」を取材させていただきました。

「壱」その名の由来

「壱」と書いて「にのまえ」。
ともすれば、読めない方も多いのではないかと思われる店名ですが、「母親の苗字で、残したいと思ったから」
一度聞いたら忘れられない店名です。

コンセプトは、堅苦しくなく、寛ぎのある美味しい料理屋。店内の照明の柔らかな光が木の温もりと相まって、優しい雰囲気を提供しています。
店の設計や材木選びに至るまで、原口氏自らが携わりました。
カウンターに6席並ぶ椅子は、ボススタイルという社長専用の椅子。内装は木の温もりを基調としており、細部にこだわりが感じられます。
芦屋のこの地を選んだ理由について、原口氏は「お店を後にしても、料理や雰囲気が心から消えてしまわない場所を探していた」と語ります。この地の風土や環境が、その願いを叶えるための理想的な背景を提供しているといえるでしょう。

「壱(にのまえ)」の店主、原口隼平(はらぐちじゅんぺい)氏

料理人への道は、5歳から目指したというから驚きです。
小さい頃から夏には海に潜り、鮑やサザエ、雲丹などを豪快に料理。菜花の時期には両親と一緒に取りに行き、さっと湯掻いた菜の花の混ぜ御飯を作る。
そんな生活が身近にあったため、幼少期からずっと料理が大好きでした。18歳で小さい頃からお世話になっていた鮨屋でアルバイトを始めました。
その後、和食の居酒屋で店長として7年間勤め、27歳から33歳まで高槻の名店「心根」で6年間修行。
和食の奥深さと確かな技術を体得され、ついにご自身のお店をオープンされました。

壱(にのまえ)のお料理

素材を活かした、やりすぎない料理がコンセプト。
「良いものを仕入れるのも、料理人の仕事。良い素材はしみじみ美味しい」とお話してくれました。
それでは「壱(にのまえ)」のお料理をご紹介しましょう。

前菜 毛蟹の料理

見た目にも涼やかな前菜は、金沢の毛蟹と北海道礼文島の雲丹がふんだんに使われています。
毛蟹は、大き目の身とほぐし身が盛られなんとも贅沢な逸品。雲丹は塩水の雲丹で、ミョウバンが一切使われていないもの。雲丹本来の味がして、とても甘味があり、その豊かな風味が口いっぱいに広がります。
たたきオクラと八芳酢のゼリーが添えられ、その上から穂紫蘇とゆずの皮が。
爽やかな香りと酸味とともにいただく毛蟹と雲丹は、濃厚さが増して感じられます。

松茸の春巻き

時期を間違えて出てきた、北海道のうっかり松茸。こちらを煮込み、甘鯛の出汁をとって葛でよせた春巻き。
たっぷり入った松茸は贅沢そのもの。すだちを絞っていただくと、土瓶蒸しのような美味しさが口いっぱいに広がります。
葛が爽やかなアクセントになっていて、全体のバランスを引き立てています。

伝助穴子焼き物

淡路島の伝助穴子は、身はふっくらと、皮目はパリッと焼かれていて香ばしい。
トマトの甘酢漬けと共に添えられているのが、ミョウガ。生のものと甘酢に漬けられたものの二種類を味わうことができます。
きゅうり、木の芽を合わせた緑酢が全体をさっぱりとまとめ、山椒油を最後にかけることで香ばしさが増します。
手前にあるものは、フィンガーライムという柑橘類。更に酸味を追加していただけます。
原口氏が一目惚れしたという水色の泡のような模様の器と相まって、美しい一品に仕上がっています。

鱧の土鍋ご飯

鱧、梅、万願寺唐辛子、蓮根が入った土鍋ご飯。
お米は長野県八重原産。りんごを醗酵させた「りんご堆肥」を使用し、農薬、化学肥料を一切使用しない特別栽培米です。万願寺唐辛子は煮びたしにしたもの。「色は生のほうが綺麗なのだが、味にこだわって煮びたしにしている」
白梅干しは上品な塩味で、ごろっと入った蓮根とともにアクセントになっています。
口に入れた瞬間「おいしい!」と声が漏れる、絶品の土鍋ご飯でした。コースの最後に出てくるフルーツ大福も絶品。
筆者が以前訪れたときはいちご大福でした。目の前で求肥に包まれる、アツアツのいちご大福は、味も食感も忘れることができません。
こちらはお店を訪れた際のお楽しみにしていてください。

お酒

壱(にのまえ)ではお料理に合ったものを、お客さまの趣向と合わせながら選んでいただけます。
様々なお酒をご用意しておりますのでこちらも是非お楽しみください。

おわりに

「壱(にのまえ)」の飛躍も始まったばかりですが、今後はアラカルトのお店もやってみたいと話す原口氏。その才能がまた一つの領域で発揮されることに、更に期待が寄せられます。
予約は非常に困難ですが、それは唯一無二の味わいと体験が約束されているからこそ。
ぜひ一度足を運んでいただきたいお店です。

壱(にのまえ)のお店情報

壱(にのまえ)

  • 最寄り:JR芦屋駅、阪神芦屋駅
  • 住所:兵庫県芦屋市大桝町3-16
  • 営業時間:12:00~、18:30~
  • 定休日:水曜・第2 第4木曜
  • 予約制:OMAKASE(現在新規のお客さまはキャンセル待ち)
  • 席数: 6席(現在カウンターのみ)
  • 予算:ディナー 税込24,200円〜使う食材により変わります。(松茸などは税込33,000円〜)ランチ 税込16,500円